仕事や家事が忙しく、歯科医院に何度も通う時間が取れない方、あるいは口を開けた時に目立つ銀歯を、短期間で白く美しい歯に替えたいと願っている方へ。従来の歯科治療では、型取りから完成までに1週間〜2週間ほどの期間が必要で、その間は仮歯で過ごさなければなりませんでした。しかし、近年の歯科医療技術の進歩により、「セレックシステム」を用いた『1DAYトリートメント（ワンデイトリートメント）』という選択肢が登場しています。これは、最短わずか1日でセラミックの歯をセットできる画期的な治療法です。さらに当院のような「歯科技工士」が常駐・連携している環境であれば、単に早いだけでなく、より精密で美しい仕上がりを追求することも可能です。この記事では、なぜ1日で治療が終わるのかという仕組みや、機械任せにしない技工士との連携の重要性、そしてメリット・デメリットについてお伝えいたします。

1DAYトリートメントとは？セレックシステムの仕組みと従来法との違い

1DAYトリートメントとは、その名の通り「最短1日の通院」で虫歯治療や詰め物・被せ物の装着を完了させる治療フローのことを指します。これを実現しているのが、ドイツで開発された歯科用CAD/CAM機器「セレックシステム（CEREC）」です。

従来の治療では、粘土のような材料でお口の型取りを行い、模型を作り、それを外部の歯科技工所に送って製作してもらうという多くの工程が必要でした。そのため、どうしても完成までに日数がかかっていました。一方、セレックシステムを用いた1DAYトリートメントでは、以下のようなデジタルフローで治療が完結します。

1. 3D光学スキャン お口の中を小型のカメラでスキャンし、患部をデジタルデータとして取り込みます。不快な型取りの必要がありません。
2. コンピュータ設計（CAD） モニター上で歯の形や噛み合わせを設計します。
3. ミリング（削り出し） 設計データに基づき、ミリングマシンと呼ばれる機械がセラミックブロックを削り出し、精密な修復物を作製します。
4. 装着 削り出されたセラミックをその日のうちに歯にセットします。

このように、すべての工程を院内でデジタル処理することによって、物理的な移動時間や製作期間を大幅に短縮できるのが最大の特徴です。また、仮歯で過ごす期間がないため、削った面が細菌に汚染されるリスクを最小限に抑えられるという医学的な利点も存在します。従来の「待つ治療」から「その日に終わる治療」への転換は、歯科医療における大きな革新と言えるでしょう。

単なる時短ではない！「早さ」と「質」を兼ね備えた3つのメリット

1DAYトリートメントと聞くと「早いけれど、質は簡易的ではないか？」と懸念される方がいらっしゃいますが、実はその逆です。デジタル技術と専門家の技術を組み合わせることで、従来の治療よりも優れたメリットを享受できます。ここでは大きく3つの利点を挙げます。

1. 治療期間の短縮と二次カリエスの予防 最大のメリットはやはりスピードですが、これは単に「忙しいから助かる」というだけではありません。歯を削った直後にセラミックを装着するため、仮歯の期間がありません。仮歯の隙間から細菌が侵入し、内部で再び虫歯（二次カリエス）になるリスクを物理的に遮断できるため、歯の寿命を延ばす観点からも非常に有効です。
2. 規格化された高品質セラミックブロックの使用 セレックシステムでは、工場で厳密に規格生産されたセラミックブロックを使用します。手作業で練った素材に見られるような気泡の混入や強度のムラがなく、天然歯に近い硬さと透明感を持っています。金属を一切使用しないため、金属アレルギーの心配もありません。
3. 歯科技工士による「匠の技」での微調整 ここが最も重要なポイントです。機械が削り出しただけのセラミックは、形は正確ですが、色は単調になりがちです。しかし、院内に「歯科技工士」が常駐、あるいは密に連携している場合、最後に人の手による仕上げ（ステイニングや艶出し）が加わります。隣の歯の色に合わせたり、噛み合わせの微妙なニュアンスを調整したりすることで、機械だけでは作れない「本物の歯と見分けがつかない仕上がり」を実現できます。

このように、1DAYトリートメントは、デジタルの効率性と、歯科技工士という職人の技術が融合して初めて、真の価値を発揮する治療法なのです。

事前に知るべき注意点とデメリット（費用・適応範囲・耐久性）

非常にメリットの多い1DAYトリートメントですが、魔法の治療法ではありません。全ての患者様や症例に適しているわけではなく、いくつかの注意点が存在します。治療を選択する前に、以下のデメリットについても正しく理解しておくことが重要です。

• 保険適用外（自由診療）であること 機能回復と美しさを追求するこの治療は、基本的に健康保険が適用されません。3割負担で済む銀歯やプラスチックの治療と比較すると、費用は高額になります。経済的な負担と、得られるメリット（審美性・耐久性・予防効果）のバランスを考慮する必要があります。
• 適応できない症例がある セレックシステムは万能ではありません。例えば、複数の歯をつなぐ長いブリッジや、虫歯が歯茎の奥深くまで進行していてカメラで正確にスキャンできない場合などは、適応外となります。その場合は、従来の型取りによる治療が推奨されます。
• 歯ぎしり・食いしばりによる破折リスク 使用するセラミックブロックは十分な強度を持っていますが、「陶器」であることに変わりはありません。寝ている間の重度な歯ぎしりや食いしばりの癖がある方の場合、過度な負荷がかかって欠けたり割れたりする可能性があります。リスクが高い方には、就寝時のマウスピース（ナイトガード）の着用を強く推奨しています。
• 「1日」には待ち時間が含まれる 「1日で終わる」といっても、診療台に座ってすぐに終わるわけではありません。設計と削り出し、そして歯科技工士による微調整と焼成には数時間を要します。その間、院内で待機していただくか、一度外出していただく必要があります。また、前歯などで極めて複雑な色調を再現する場合は、当日中に完了しないケースもあります。

あなたは適応？1DAYトリートメントをおすすめできる人・できない人

ここまで1DAYトリートメントの仕組みやメリット・デメリットを解説してきましたが、「結局、自分には合っているのだろうか？」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。ライフスタイルや価値観、そしてお口の状況によって向き不向きがあります。以下にチェックリストをまとめましたので、参考にしてください。

1DAYトリートメント（セレック）を特におすすめできる方

• 多忙で通院回数を減らしたい方 仕事や育児、介護などでスケジュール調整が難しく、「何度も通うのが負担」と感じている方には最適です。
• 嘔吐反射があり、型取りが苦手な方 オエっとなる粘土のような型取り材（印象材）を口に入れる必要がないため、苦痛を感じずに治療を受けられます。
• 過去に入れた銀歯を白くやり替えたい方 金属アレルギーの心配がある方や、笑った時に見える銀色がコンプレックスになっている方に、身体に優しいメタルフリー治療として推奨されます。
• 再治療のリスクを極力減らしたい方 歯との接着性が高く、虫歯の再発（二次カリエス）を防ぎたいと考える予防意識の高い方に適しています。

慎重な検討が必要、またはおすすめできない方

• 極度の歯ぎしり・食いしばりがある方 セラミックは強い衝撃で割れるリスクがあります。この場合、より強度の高い「ジルコニア」素材を選択するか（その場合、焼成に時間がかかり1日で終わらないこともあります）、就寝時のマウスピース使用が必須条件となります。
• とにかく費用を抑えたい方 保険適用の範囲内で治療を完結させたい場合は、この治療法は適応外となります。

最終的には、歯科医師がレントゲンや口腔内診査を行った上で判断しますが、ご自身の優先順位（時間、美しさ、費用）を明確にしておくと、スムーズな選択ができるでしょう。

まとめ

セレックシステムと歯科技工士の連携による「1DAYトリートメント」は、単に「治療が早い」という時短のメリットだけでなく、デジタル技術による「精密さ」と、歯科技工士という専門家による「審美性」を融合させた、現代の歯科医療において非常に理にかなった選択肢です。

従来の粘土による型取りの不快感から解放されること、そして仮歯の期間をなくすことで歯への細菌感染リスクを最小限に抑え、治療した歯を長持ちさせられる点は、患者様の心身の健康にとって大きな利益となります。もちろん、自由診療であるための費用面や、歯ぎしり等のリスク管理など、事前に理解しておくべき点はありますが、「忙しいけれど歯を大切にしたい」「銀歯をなくして自信を持って笑いたい」と願う方にとって、これほど有効な解決策は他にないと言えるでしょう。

当院では、最新の機械を導入するだけでなく、そこに「人の手（歯科技工士）」を加えることで、機械だけでは表現できない自然な温かみのある歯を提供することにこだわりを持っています。治療の選択に迷われている方は、まずはご自身の歯が1DAYトリートメントの適応かどうか、歯科医師に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。正しい知識と選択が、将来のあなたの笑顔を守ります。